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2010年11月

2010年11月21日 (日)

糸川英夫 『驚異の時間活用術』 PHP文庫(ロケット開発の父)

「わたしは、とくに宇宙にあこがれていたわけでもないし、

宇宙が好きでたまらなかったわけでもない。

しかし、アメリカが始めるならば、日本も始めるべきではないかと思った」

 糸川英夫 『驚異の時間活用術』 PHP文庫 (ロケット開発の父)

fullmoon

「アメリカが宇宙に挑戦するなら、

日本もまた挑戦して、なんのはばかることがあろう。

日本で、だれも担い手がないとすれば、

自分こそ、その担い手となろう。わたしはこのように決心したのだった」

 糸川英夫 『驚異の時間活用術』 PHP文庫 (ロケット開発の父) #hayabusa

fullmoon

「目標は、ただ黙って座っているだけでは決して与えられない。

大勢の人々が感謝してくれるような人生の目標を選択するためには、

まず自分の方から、一歩動きださなければならない」

 糸川英夫 『驚異の時間活用術』 PHP文庫 (ロケット開発の父) #hayabusa

fullmoon

おまけ

「(政府が 科学技術一般に理解が足りない)いただく予算は税金ですから、きちんと使わなければならない。

しかしその”きちんと”というのは、

会計検査員がいて、会計監査的に問題のない使い方ということなんですよ。

チャレンジは、ダメなんです。

チャレンジして失敗したら、会計監査的にはダメなことなんです」

五代富文 元NASDA副理事

2010年11月18日 (木)

乱暴な力。無法な力。[広辞苑]

仙谷氏「自衛隊は暴力装置」
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1411202&media_id=4

言葉の選び方が問題なんだ。

”暴力”と言ってしまったら、”暴力団=自衛隊”

になってしまう。

タイトルの通り。無法なんだよね暴力って言葉の意味合いは。
政治家の問題発言はある意味当たり前ではある。
これは諦めに違いが、戦中-戦後教育の中、
ボキャブラリーや洗練さと言ったものを持っている人は意外と少ない。

だって、元々が政治はパワー・ゲームになっているからね。

「昔の人でも、素晴らしい人は大勢いる」

と、言われる方もいるだろうし、否定はしません。
ただ、そういう人は明治・大正生まれの人が多くないですか?

昔(便宜上、戦前として使います)の人は、信念・理念を持っていました。
それは、明治維新などの改革という”時代”そして、
外国の言葉でなく”日本語を使って言葉を覚えています”。

戦後生まれは、自分の意志とは関係なく、
”力が無ければ生きていけない”と感じて育ってきた人たちが多いはずです。

焼野原を生き抜いたんです。
当たり前です。

しかし、その事によって、失われてしまったのではないでしょうか?

”日本語、日本人の価値観”を

今は飢餓状態は戦後に比べ格段に改善されているでしょう、
ですが、”言葉の飢餓”、
さらには、”言葉の暴力”を今の社会は簡単に生みだしてしまっています。
そして、それに”耐えられない人々。
侮蔑の意味で”耐えられない”と言っているのではないのです。

『耐えるための抗体ができる前に世の中が動いた』

と考えています。
スピードが速すぎて人間が追い付いていないのです。

環境を変えるのは容易ではありません。
しかし、可能性には掛けたいと思います。

ここまで言うなら、「具体的な対策を示せ」
と、仰りたい方もいるでしょう。

申し訳ありません。
正直に言って、今すぐには答えられません。

”諸問題・人間の本質を突き詰めていくことによる可能性(多様な中でも揺るがない芯)”

を、どう見出していくかを模索していくしかないと思っています。

私は、人間を信じます。
そして、常に考え続けていきます。

2010年11月17日 (水)

ビジネスパーソンに聞く、20代で読んでおくべき本は?

ビジネスパーソンに聞く、20代で読んでおくべき本は?
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1408857&media_id=40

 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』
 『マネジメント――基本と原則』
 『28歳からのリアル』
 『20代に必ずやっておくべきこと』
 『金持ち父さん貧乏父さん』
 『7つの習慣――成功には原則があった!』

↓書籍↓

あくまで「25~34歳のビジネスパーソン1000人が回答」
本来は、「20~29歳までに読んでおくべき本」ってことですよね?

キーワードは、
①社会人として未熟な部分を補いたい
②時間はないが、将来に対して不安

といった点でしょうか?

私なら、

『100の悩みに100のデザイン』
『感動力』
『なぜあの人は会社を辞めても食べていけるのか?』
『ロケット開発「失敗の条件」』
『将棋の子』

エッセンスを読む。
一冊に対してのページ数は、4~5ページくらいです。
『世界の自己啓発50の名著』
『世界の成功哲学50の名著』

↓書籍↓

でしょうか?
上記①②に対して、答えになっているかは分りませんが。
理系系なら読んでおいて損はないと思います。

2010年11月 1日 (月)

これからは

読んだ本のレビューや自分の考えを述べていきます。

時事、小説、経営、兵法、などおすすめできる話題と関連書籍があれば紹介していきます。
二番煎じにならないように自分の色が出せたらと思います。

小説は「小説家になろう」
 http://mypage.syosetu.com/mypage/novellist/userid/111674/
にて発表していきます。

「それぞれの想い」⑥

 しばらくして国境警備の強化のため軍の増強が決定される。
 引き続き岳国兵の動きが旧宝国領で見られるとの報告があり、国境付近の軍備が拡張された。
 司令官は備彩殿下が務め代理として綬楊が副官としてついていた。
 部隊は彩国人兵と宝国人兵で編成され、国境警備や旧宝国領の監視も視野に入れるものとなったため宝国人が重要な役割を担っている。
 綬宝は綬朱とともに戦った宝国人部隊の隊長を、副官を布識が務めていた。常駐軍には綬宝指揮下以外にも、大人の宝国人が彩国人の部隊の中に組み込まれている。
 備彩殿下のはからいで、綬宝の隊の横に大人の宝国人達の連絡所兼休憩所が隣接していて、訓練以外にも大人たちと日常的に接することができたた め、輪財や陶格たちも不安がることなく生活がおくれていた。段季師範代も今度の軍には参加していたのは宝国人全体にとって安心感を与えた。
 軍は増強されたものの、彩国皇帝は積極的に打って出る行動は取るようすがなかった。
 あくまで岳国が攻めて来たら戦うとの指令にとどまっている。
 それに対し、宝国民からは領内の監視だけでなく街の再建を部分的にでも行いたいとのの声が上がった。彼らは、自分たちの祖国を目前にし何もできないことに不満を漏らしていた。
 綬宝は国境と、宮殿を往復することが多くなり、軍に動きはないものの、個人的には忙しい日々が続く。
 夜、綬宝は彩国の国境から荒れ果てた宝国の地を眺めていた。
 彼の法力も少しずつその力を増しているようで、下手な物見の者よりも遠くの動きをとらえることができるようになっていた。
「眠れないのですか」
 布識だった。段季師範代とともに宝国部隊の両輪の役割を果たしてくれている。
「ああ、正直言って色々と不安だな。岳国や彩国そして宝国すべての思惑が入り乱れている」
「私たち宝国民はあなたに付いて行きます。後は私が、もうお休みになってください」
「そうさせてもらうよ」
 俺は宝国民部隊全体の長になっていた。法力も使えなかった頃が懐かしくさえある。宝国の方を眺めていたのはどうも不安ながよぎったからでもあった。宝国は山が多く敵に隠れられるとなかなか捉えることは難しい。
 宝国は「知」の能力により敵の行動を素早く知り、岳国と対抗できていたのだと、道場に入門した時に習った。しかし、それまで守ることができてい た国がなぜ滅びかけるところまで行ってしまったのだろう? 重要な点に気付かなかった。宝国王が攻めてくる岳国に注意が行かないということはなかったはず だ。
 そのまま段季師範代の所へと向かった。
「遅い時間すみません」
「おお、綬宝様。堅苦しい挨拶は抜きにして入ってください酒でも出して来ましょう」
「いえ、すぐに帰るつもりです。聞きたいことがあるのです。先の岳国の戦争は事前に予測できなかったのでしょうか?岳国との国境近くに国境警備の 部隊は少なからず配置していたはずです。宝国人の持つ「知」の法力を使えば寝ていても近づいてくる敵に気付く者もいたのではないでしょうか?」
「はい、私はその時宝国本国にいたのですが、不思議なことに岳国兵が近付くまで気づけませんでした。次々に砦を突破され城下まで近づいてきてしまったのです。その時慶綬様が彩国にいたのも運が悪いというか、それを狙っていた節もあります」
「岳国が来た時には宝国には王は不在だったのですか?」
「はい、王子様を連れ彩国にいました。漂香姫との許婚の約束や外交上の話をするためだと私たちは聞かされていました。しかし、我々だけでも国境に迫る岳国兵は知りえたはずです。知の能力も予言的なものを発揮する場合があります。
 主力軍を預かっていた角老様などはその能力が高いのですが、その角老様も彩国に呼ばれてしまったのです。私と兄は場内に住民を収容し、そのあと は城下で敵を食い止めるのが精一杯でした。慶綬様が角老様とともに帰ってきてやっとまともに戦いだすことができました。ただ、彩国からの援軍を期待してい たのですが、あとからやってくるとのことでした。しかし、いよいよ城が危ない時になってやっと、綬楊様が来てくださったのです。慶綬様と岳国王が直接対決 に入ってしまい我々も手が出せなくなってしまいました。王妃様も王子様を抱きながら戦い続けたのですがついに力尽きてしまいました。その時王子様が鳴き声 とともに力を発散周囲にされたのです。慶綬様はその王子様の力と自らの力を使うことで岳国王もろとも敵軍に攻撃し、なんとか敵を引かせることができまし た。その後、岳国王は死んだと噂がたちました」
 師範代は無念の表情を浮かべていた。

 この日も、綬宝は国境から会議のため宮殿に向け独り馬で移動していた。
 個人的には速の法力で移動した方がずっと早いのだが、士官として国から与えられているためこのようなときには利用していた。
 今日は、皇帝陛下に先に到着している備彩殿下と今後の軍の編成についての会議があったため、朝早くに出発していた。旧宝国領内への偵察の範囲を 広げる決定に際して、事前報告を求められていた。現在の偵察範囲では、宝国領の主要な鉱山は監視できるものの完全とは言えないため、岳国側で採掘が行われ ている可能性があり、両国の軍事的なバランスを失う危険があったためだ。
 以前からこの問題は指摘されていたが、今まで手付かずのままにされていた。
 ただ、出発してからしばらくすると、脳裏に何かいつもと違う感覚があり、それがなんであるのか分からず気分の悪さを感じていた。熱でもあるのか と最初は思ったが、出発するまでは何ともなかったため不思議に感じていた。頭の中で何か異物を感じるような何かがあり、それは一定の距離をとりつつも自分 の周りを回っている星空のようでもあった。
 あえて意識して周りの景色を想像する。
 すると、その点はそれぞれバラバラな動きをみせて綬宝をイラつかせた。
 しかし、点は不規則なようで規則的な動きが綬宝の周りを廻っている。
 馬を止めて水を飲む。頭に浮かんだ点は動かなかった。
 また馬に乗りゆっくりと進む。そして、鞭打ち全速で駆けさせる。点は虫が跳ねるように移動した。綬宝は馬をすて、一つの点の方向に向け、法力で全開ともいえる早さで跳んだ。
 目の前に人影が見え、戸惑っている相手をからめ捕るように法力を飛ばした。
 相手は綬宝の法力で動きが取れないながらも法力を飛ばし攻撃してくる。
(岳国の密偵か?)
 迷っている間は無く、斬り捨てる。
 その胸には岩をはめたペンダントがあった。
 力が吸い込まれるような感覚が綬宝を襲う。
(これで、知の法力が吸収されていたのか?)
 頭の中に浮かぶ点は急速に正反対二つの方向を目指した。
 宮殿と警備軍側、彩国とと岳国の方向に散ってしまった。
 綬宝は両掌を二つに分かれた方向に向け法力を打ち出した。
 いくつかの点は綬宝の法力に飲み込まれ消えたが、まだ左右に散っていく。
(国境側は逃げる気だろう。今はあの法力で宮殿側の誰かが異変に気づいてくれれば)
 急ぎ宮殿に向かうが、相手も速度を速めていてなかなか差が縮まらない。
(法力を使いすぎたか)
 綬宝を疲労感が襲うが走り続ける。
 敵は城壁を超え、宮殿のへ迫っている。宮殿の屋根づたいに逃げる人影をとらえた。
 すでに宮殿の奥へと来てしまっている。
(漂香の暮らす建物にまで来てしまったか……)
 やっと相手との距離が縮まるその時、射撃の法力が飛んできたが、それを避ける余裕のない綬宝はそのまま体当たりする格好となった。相手がどうなったか確認したくても、綬宝も疲労から力が入らず動けない。身体は力なく崩れる屋根とともに宮殿内へ落下する。
 動けずに仰向けに倒れた綬宝に起き上がりゆっくりと迫って来る影。
(これまでか……)
「綬宝!」
 迫ってきた影が一瞬たじろいだ。
 漂香の放った法力に相手を倒すほどの力はなかったが、隙を作らせる結果となった。
「漂香! 逃げろ!」
 綬宝は漂香に身体を向けた影が彼女を撃とうとしたところに、法力を振り絞り身体を割って入らせた。
 影は法力を放つ。
「あ……あなたは!」
 顔を見た綬宝は驚いた表情のまま跳ばされ、壁に打ち付けられる。
「綬宝しっかりして」
 漂香が綬宝に駆け寄り抱き起こす。
「漂香。逃げるんだ」
「嫌よ! 綬宝と一緒にいる!」
 漂香の叫ぶような声が響いた。
「ぐっ」
 影に剣が突き刺さる。
「なぜ? このようなことをされる」
 男の声がする。振り返った漂香は驚きとも恐怖ともいえない表情で影の顔を見た。
「父上……(お父様……)」
 兄妹の声がこだました。
 影をつらぬいたのは備彩の剣だった。
「なぜ、綬宝の命を狙われた? 娘もろとも葬ろうとは何をお考えだったのです」
 倒れた皇帝に向かい問う。
「備彩よ。私が弱かったのだ。岳国との争いを避け裏で同盟の道を探っておった」
「岳国との同盟を? 常に敵どうしだったではありませんか!」
「岳国が宝国に攻め込んだとき、私は援軍を送るのをためらった。それは、岳国が宝国を襲う時に手出しはするなというのが、同盟の条件であった」
 皇帝は血を吐きながらも話し続けた。
「宝国の土地そして民は脅威でもあり魅力であった。民は宝国王のような金法を生む土台となり、そして、土地は彩、岳、両国にない恵みをもたらす。 宝国を独占されるを恐れ、民を受け入れ運良く逃れてきた王子を育てさせた。私は計算ばかりして実の無い王であった。綬宝よ、お前は宝国王の息子だ。おまえ も道具として見ていたのかもしれん。漂香との婚約で宝国と同盟を強化しようとする前から岳国と謀っておったのだ……」
「お父様。死なないで!」
 叫ぶ漂香の頬に手をやり語りかけた。
「漂香。お前は綬宝に嫁ぎなさい。謀りごとではなく、お前の幸せのために……」

 彩国皇帝の死後備彩が皇帝に即位する。
 その際、彩国内では岳国との同盟に関係した者たちの粛正が行われた。
 綬楊は、国境警備軍の指揮官に任ぜられ事実上昇格した。初めは固辞したが、備彩皇帝から再三要請され引き受けることになったのだ。
 後に彼はこう語っている。
「私には、功績などない。彩国皇帝が、私に救援に向かう軍の指揮をとらせたのも先祖の功績で宝国王がその名につける『綬』の字を賜る家系であった からだ。宝国王は将来、国が再興するときが可能な時まで身の危険を避けるためにあえて法力を封印し残された綬宝王をお育てした。私が行ったことといえば、 宝国とのつながりを絶やさず、軍の遠征でその身が危険に会う前に修行をさせたことくらいだ。皇帝陛下の真の考えは私にも解らなかった。漂香姫は生まれたと き同盟の証しとして、彩国から宝国へと嫁ぐ約束をしたため。宮殿では二人を一緒に育て、さらには備彩殿下と同じような教育もされた。しかし、国の主たるも の、どのような考えを持っても不思議ではない。だから私は子を託され育ての父として、力を尽くしたにすぎない」

 機織りの音が部屋の中に響いている。横でその光景を微笑みながら見ている男の姿があった。
「ずいぶん手慣れてきたじゃないか、漂香」
「ええ、お腹の子の為にも早くに織っておかないと。この頃はよくお腹を蹴るのよ、元気な子ね。きっと男の子よ」
「きっと立派な王になるでしょう。貴方様のように」
「ばあや。風邪をひいたと聞いたけど出歩いて問題ないのかい?」
「大丈夫ですとも。次なる主をこの手に抱いてからでないと心残りで死ねませんからなぁ」
「気が早いなぁ、ばやは」
 綬宝は鎧を身につけながら、ばあやに向け笑いながら言った。
 その鎧は幾多の戦いをくぐりぬけても傷ついていない。
「王女様、王様の即位式の後もまだまだ沢山の布を織っていただかなくてはなりませぬぞ」
 王女の冠をつけている漂香に向かいばあやは先生にでもなったかのように目を閉じながら人さし指を振った。
「さあ、行くぞ。国民が待っている」
 綬宝は漂香の手を取り国民が待つ城外へと歩いていく。

 機織り機の布は揺らめくたびに金色に輝く。
 国王を守る祈りを乗せて。
 城の外には、国民の歓声が響いていた。

<むりやり短編版(終)>

「それぞれの想い」⑤

 道場に戻ると、修行部屋へ走って行き。夜中なのもお構いなしに水晶に法力を込めた。渾身の思いで手に力を込める。脳裏には泣いていた漂香の姿が浮かんだ。その時、金色に水晶が光ると、粉々に砕け散った。
 体中に力がみなぎる。
(初めて……ではない?懐かしい感覚がする)
「自分の力で封印を解いたようじゃな」
 振り返ると師匠がうれしそうに立っていた。
「封印?」
「今はまだ知らんでもよろしい。おぬしの力は自分自身が本当に必要としたときにだけ力が出せるようになるようになっとったんじゃ。それでもまだ全 ての封印が解かれたわけではない。明日からは力の制御を学ばねばならん。今夜はもう遅い。この力を抑える数珠を首に巻いて寝なさい」
「ようし! これから漂香に会いに行くぞ! 喜ぶだろうなあ」
「話を聞け!」
 頭から大きな数珠を被せられ急に力が出なくなった。
「まぁ、この数珠で力が抑えられるのも今のうちだけじゃ本来の力が出せるようになれば、誰にも止められなくなろうて」
「ようし、いっちょう国でも起こしてみるかぁ!」
「いいから寝ろ」
 さらに数珠が追加され意識がなくなった。
 翌日から力の制御の修行へと移った。演習の出発までは二十日しか残されていない。それも速、力、知、防、射の全ての修行だ。
 師匠は[速、力、知、防]四つ法の使い手だとその段階になって初めて知らされた。
 師匠よりは若い段季(だんき)師範代は[速、知、防、射]の使い手だった。
 師範代が高速で動きつつ攻撃を仕掛けてくる。綬宝はそれを避けつつ射撃の法力で応戦する。気を抜くと師匠が横から突きや蹴りを入れてくる。
 初めは、ただもて遊ばれているようなものだったが、徐々に相手の動きが読めるようになってきた。動く先にもうひとつ薄い色でどんな動きをするのかが見えてくるのだ。
 相手が射撃の法力で来れば、避けられるものは避けるがそれが無理な時は防で楯を作るか体の表面を覆うか、とにかく出来る方で対応する。
 さらに十日が過ぎ、二人相手によけながらこちらも反撃をすることができるようになって、左手で防の盾を作り右手で打撃や射撃をするなど応用力も付いてきた。
「だいぶ上達したな。法力の力は出切ってはいないが、何種類も同時に使いこなすのと、わしらの攻撃をしのぎ切れるようになったのは大きな進歩じゃわい。だが過信してはいかんぞ、おぬしの法力はまだ不安定じゃ」
「はい」
「ずいぶんと精を出してやっておるようじゃな」
 懐かしい声が聞こえた。漂香姫のおつきのばあやだ。
「お前、自らから来て漂香姫の警護は大丈夫なのか?」
 師匠は随分と知っている風だ。
「師匠の妹だよ、あのばあさんは」
 段季師範代が教えてくれた。
「え?」
「なに、すぐに戻るよ。漂香姫に綬宝様の様子を見てきてほしいと頼まれたのさ。そして兄さんに頼まれた石板も借りられたよ」
 手には自分が独房に押し込められた原因の石板があった。
「持ってごらんなさい」
 石板を持ってみると、目盛りは金色に[速:2、力:2、知:2、防:2、射:2]何とも微妙だ。なんだかがっかりしていると、「金法の持ち主は全ての種類の法力を組み合わせながら使うことができるので、悲観することは無いぞ」と、角老師匠に言われ三人に笑われた。
「後しばらくすれば出発じゃの。綬宝様、演習に出かける前には必ず来てくれとの漂香姫からの伝言じゃ。姫様も綬宝様のために『祈り玉』に法力を注ぎ込んでおるぞ」
 それだけ言うとばあやは帰って行った。
 祈り玉は法力を溜めることができる石に力を使ってほしい相手のことを思いながら法力を注ぎ込む、それを身につけた者の法力を補う役目をしてくれるものだ。
 この祈り玉は相手が力を使ってほしい人に限定されているため、恋人や親族などが戦争に行く時など、残された者たちが作り持たせることが多い。男性よりも女性が力を込めた方がその効力は見違えて発揮される。「母性本能」に関係するのではないかとの説がある。
 その祈り玉は武具に埋込むか、腕輪や足輪として使用する。祈り玉の質により溜められる法力の量や実際の発揮され方が左右されるため、良いものを買おうとすると、おのずと高価なものになる。
 漂香が俺のために祈り玉を作ってくれている。
「もっと強くならなければ」
「法力の力自体を上げるには場数を踏むしかない。わしも後二十歳若かったら一緒に行きたかったのだが」
 角老師匠の笑い声が聞こえる。
「残りの日にちはこの道場の若者との特訓じゃ皆軍に所属しておる。今も一緒に寝起きしているが、お互いに稽古して高めあうことじゃ。おぬしの兄の部隊の者もおるぞ。宝国人は宝国人なりに彩国に協力しておるのだ」
 綬宝の力が特殊なことは確かなようだと自覚できたが、師匠達には独房であった老人のことはまだ話していない。自分が宝国人であった場合、今まで の家族は何だったのか?漂香とも一緒にいられなくなるのではないか。それに俺が王子の筈はないと、色々な考えが交錯してしまい考えがまとまらない。

 道場には何人かの同年代の若者が寝泊まりしている。大体が先の岳国と宝国の戦いでの戦災孤児たちだ。皆、一生懸命に勉強し武芸にも励んでいた。
「綬宝様は宮殿でお務めなのでしょう?どんなところですか?」
 十六歳の輪財(りんざい)が道場で興味深げに聞いてきた。彩国の宮殿の話をしてやると、輪財は宝国が再建されたら宝国の宮殿で働きたいと言った。
 この道場の若者たちは自分たちの国をまた作り上げるのだと信じている。そんな若者や通ってくる子供たちの学校の役割をこの道場は兼ねており、漂 香姫に服を貸した古着屋のおばあさんは宝国の服を作り子供たちに無償で提供している。他の商売を営む人々も何かしらの援助をこの子供たちにしているのを修 業中に見かけた。
 輪財も今度の演習に参加する。この道場の中でも三十人は演習に参加するのだが、年は十六から二十歳までの若者たちだ。
 一緒に稽古していると、それぞれの法力の癖や性格がわかってきた。
 輪財は好奇心旺盛で何にでも興味を示す。知の法力が達者で、遠くにいる人もその法力の波動で見分けることができる。
 同い年の陶格(とうかく)は口数が少ないく冷静だが、防の法力に優れ一度に何重もの法力の盾を作ることができ、自分のまわりに張り巡らせて仲間を守ることも可能な重宝する法力の持ち主だ。
 最年長の部類に入る二十歳の布識(ふしき)は[知、防、力]の法力が使えるうえに銀法の持ち主で、道場の中のまとめ役をしており、皆から兄のように慕われている。
 これら三十人は、綬宝の兄である綬朱の近衛隊を再編成して一緒に行動すると宮殿から知らせが来た。演習のため参加するものは宮殿に隣接する広場で訓練後、本格的な演習に出かける。
 出発が近づくと、古着屋のおばあさんが皆に鎧を持って来てくれた。
 持ってきたのは宝国の鎧で、彩国のものに比べると、隙間は多いがその分動きやすくなっている。速の法力を基本的に持たない宝国人の為の工夫と言える。
 装備には盾もない。これは、基本的に[力]の法力を持たない宝国人にとって体力を消耗する邪魔なものとなるからだ。その分鉄の産地であるだけに、鎧や刀に使われる鉄はただ硬いだけでなく粘りもあるのが特色である。
「綬宝様はこれを着てくだされ。戦の前に作られていますからしっかりしたものですぞ」
 差し出された鎧は、やはり宝国人仕様だが飾りがついており、表面に白い布が張ってあることで、より一層他の鎧とは違う雰囲気を際立たせていた。
 これでは派手すぎるといっても着ろと言って聞かない。おまけに肩に付けるマントまでつけてくれた。それには大きく何かの獣の顔が金色で刺繍してある。いつかの宝国の祭りで借りた衣装にも同じ柄の刺繍があった。これは何かと聞くと。
「主の証しですよ。宝国の若者は皆貴方様の下に付きます。その印だと思っていてくだされ」
 とだけ言って、長短二種類の剣も手渡された。
 演習の際には、道場から送り出される宝国人の隊長に自分がなっていることを、使者から渡された父からの手紙で知った。「家に帰ってこなくていいから綬朱と宮殿で合流しろ」とある。綬楊は別にある自分の部隊を率いて演習に参加するとあった。
(まあいいだろう演習なんだしと、気楽に考えることにした。
 古着屋のおばあさんが彼に用意してくれた鎧はしっくりと体に馴染んでいる。色々と派手だが動きの邪魔にはならない。道場の皆も自分たちの隊長が立派な服装で誇らしげだ。この真新しい鎧は戦の中でも懸命に守られていたのだろう。どこにもほころびはない。
 演習に参加するもの全員が、宮殿に集められ部隊編制を行った。綬朱の近衛隊に宝国人と宮殿の警備兵を加え二百人余りの編成となった。綬朱が部隊長で、綬宝はその指揮下の隊長となり、宝国人が従っている。
 日程も二十日ほど彩国の外に出て旧宝国領で演習を行うと発表があった。彩国民には、国境から出ての演習で何も起こらなければ良いがと不安がよぎる。岳国の情勢は一般の者には伝えられていないからだ。もしかしたら岳国との戦が近いのかもしれないと思いがあり皆真剣だ。
 宮殿に隣接している広場で、演習に参加する部隊は宿をとりながら訓練を行った。道場での成果か宝国人も彩国人に負けることなく彩国内での演習についていくことができた。
 出発の前の日、部隊の演習についてなど色々と忙しかったが、時間を作り広場を抜け出し漂香姫の所へと行く。
 綬宝は漂香姫に久しぶりに会うことがうれしかった。彼女もにっこりとほほ笑みながら安心したようすだった。
「立派な格好ね。もったいないくらい。本当に来られるのか心配したのよ」
「ごめんよ。演習の段取りだとか忙しくて」
「隊長さんですってね。でも、無理はしないで、お守りにこれを持っていって」
 祈り玉のはめ込まれた腕輪のような物を四つ見せてくれた。そういえば少し疲れたような顔をしている。祈り玉に法力を注ぎ込みすぎてやしないかと心配になったが、「大丈夫よ」と腕と足につけてくれた。
「お父様に頼んで宝物庫から出してきた祈り玉だから特別上等よ」
 上等どころか国宝級を使ってやしないかとひやひやしたが、付けたとたんに体が軽くなった気がする。時々キラキラと銀色に輝くのは漂香姫の銀色の法力が注入されているからだろう。
「ただの演習だから武勲とはいかないだろうけど頑張ってくるよ」
「いってらっしゃい」
 漂香姫と別れ広場に戻った。明日から旧宝国領へ行き演習本番となる。
 部隊は彩国の国境を離れ宝国人が住んでいたらしき村に近づいた。寂れ瓦礫となった街並みを見ながら宝国の若者たちは悲しそうに母国を眺めている。
「やっぱり僕たちはここに住みたい」
 輪財はそうつぶやいた。皆も頷いている。
 綬朱の部隊は本格的な行軍訓練のためそのまま宝国の街並みを抜け森林地帯に入って行った。
 元々旧宝国領には山が多くそれが天然の要害でもあり旧宝国領全体の把握を難しくさせていた。三日間の強行軍での行軍訓練の後引き返し、綬楊のいる本体へと合流する手はずになっている。
 足早に荒れた森の中を進むが、自分の法力と漂香姫の祈り玉のおかげか疲れを感じない。
 だが、さすがに速や力を持たない宝国人は一番後ろから遅れ気味についていくことになった。皆を励ましながら行軍を続けていき。小高い丘で休憩をとった。
 皆が落ち着いていると立っていた輪財が何かを見つけたのか驚いたように叫んだ。
「綬宝様!前の大きな森の中に集団が近づいてきます!」
「俺たちの前を進んでいる軍はないはずだぞ」
 綬朱が言うが、綬宝も目を凝らしてみると確かに何かの影のようなものが見える。こちらの三倍以上の数だ。
「兄さんおかしい。大きな部隊がこちらに進んできている!」
 部隊がざわめきだつ。急ぎ動ける体制をとるよう部隊長の綬朱から指示が出た。
「輪財、布識! こちらは見つかったと思うか?」
 こういう場合、宝国人に聞いた方が予知も含め状況が見えているぶん信用できる。
「真っすぐこちらに来ます!見つかっているでしょう」
 布識が答える。三倍の敵に対してどうすればいい。周りを見ながら頭を巡らせる。
 森の中を見渡すと、自分たちのいる丘の横に小さな砦らしきものが見えてきた。
「部隊長!ここからそう離れてないところに昔の砦のような物が見えますそこで守りを固めましょう。こちらが今から逃げても追いつかれてしまいます。本体への連絡を出して我々は自分たちで身を守るしかありません。相手にもっと別の目的があれば素通りしていくかも」
「よし!急いで移動しろ!」
 綬朱は速の法力の強い者を救援のため送り出し、残りの隊員は古い砦へと向かった。
 入口は壊れていたため部隊が入った後は瓦礫で塞いだ。
 これで、自分たちも出られないに等しい。
 だが、砦が小さな分、この人数で守るのにはつかえそうだ。
「だめです。少しこちら側に進路を変えました。見られていたようです!」
 輪財からの報告が入る。
「布識、陶格は、正面の守りを宝国兵の防の盾で固めろ!兄さん登ってきた敵を彩国の兵でたたき落してください! 力の強いものは弓矢や石を投げて応戦しましょう」
「よし! 彩国兵はおれがまとめるから、状況に応じて綬宝は宝国兵を動かしてくれ」
 間もなく目の前に岳国兵が迫ってきた。
 どうやら見逃してはくれないらしい。
「皆、慌てるな! 落ち着いて俺の言うことを聞け」
 思わず綬宝の口からそんな言葉がこぼれていた。内心は不安だらけだがやるしかない。
 本体からの応援が来るまで持ちこたえるしか手が無いのだ。
 岳国人は崩れはじめるともろいという話と、射の法力は体外に法力を放出する性質上疲れが出てくるのが早いために長期戦には向かないことを有利な 材料と考えるしかないが、防とて体外に盾を作った場合に同じことがいえた。打ち出さないだけ射に比べて疲労は防の方が少ないが、楽観できる状態ではない。
「陶格盾を作れ! ほかは順番に盾をつくり続けろ、こちらが切れたら一気にやられるぞ!」
 彩国人の前に陶格が楯を作る。他の宝国兵も楯を作り敵の射撃に備える。もう気の早い岳国兵の中には射撃の法力で砦に向け攻撃を始めているものもいる。
「輪財、布識こっちに来てくれ! 輪財、敵兵の中で法力の強そうな物や小隊長らしき敵兵が見えたら布識と連携して狙い撃て!」
 砦の攻防戦が始まった。こちらが圧倒的に不利だが、砦の防御はしっかりしている。砦自体が崩される心配はなさそうだ。
「綬宝様、奥に強い法力を感じます敵の大将かもしれません」
 輪財の指さす方を見ると他とは違う鎧を着た、体の大きな者がいるのが見えた。
 今の兵力差から考えると、相手の士気を萎えさせ退かせるしかないだろう。
 綬宝は無謀とも思える行動に出た。
「こっちに気づけ!」
 岳国兵に向け射撃を繰り出す。向こうもこちらに気づいたようだ。素早い動きで迫ってきた。
「小僧死にたいのか!」
 そう叫ぶと射撃が飛んできた。とっさに体の表面を防の力で防ぐのがやっとで後ろの壁に打ち付けられた。壁が砕ける音がする。(体は動くか?)確 認する間もなく岳国兵は大きく跳躍し砦に飛び込むように目前に迫った。岳国兵が斧で攻撃してきた時に綬宝は砦から落下してしまった。地面に叩きつけられた が、とっさに身構えた。
 腕に痛みが走り、大きな音が鳴り響いた。
 右腕で構えた所に岳国兵の斧が当たり逆に砕け散る。
 漂香がくれた祈り玉に当たり割れるときの力で斧を砕いたのだ。
「おのれ運のいい奴め」
 相手は手が痺れたようにしていたが、すぐに剣に持ちかえ振りかざしてきた。
 何度か剣を合わせても決着がつかない。相手も綬宝の動きと力から只者ではないと判断し距離をとり射撃の連打を浴びせ目の前に岩や土が舞い視界が見えなくなり剣も飛ばされた。
 綬宝は身体を覆うように防の法力で盾を作りながら襲ってくる法力の雨がどこから来るのか探っていた。はじめは、相手も動きながらなのか位置がつかめなかったが、知の法力にも集中しながら防いでいると、道場での修業の時のように相手の動く先が見える。
 一気に駆け出し相手の距離を縮めた。そして、相手の右わき腹の鎧の隙間が光って見え、そこに飛び込むように近づいて行った。その光る脇腹に、短剣を差し込んだ。
「それくらいではきかぬぞ!」
 背中が敵の武器と射撃とで打ちつけられ、身体に衝撃が走り意識が朦朧としてきたが、短剣もろとも全身に法力をみなぎらせる。
 綬宝の全身が金色に輝いた。
 その時に「ドン」と音がして岳国兵のうめき声が発せられた。短剣の先から出た防や射の法力により相手の体を貫いたのだった。
「見事な法力だ。その金色の法力には思い当たる名もある…… 自国発展のためには戦を続けなければならん場合もある。それが国というものだ……」
「何を言う! 平和な暮らしをしていてはいけないのか!」
 すでに絶命し綬宝の問いに答えは返ってこなかった。
 敵の大将が倒れたのを見て岳国兵が後退していく。
「綬宝様大丈夫ですか」
 陶格、輪財が駆け寄ってきた。
 布識は敵側に目を配りながら宝国兵をまとめている。
「ああ、大丈夫だよ」
「あの岳国兵の動きが速すぎて助けられませんでした。すみません」
 輪財が泣いている。「問題ないよ」と、強がって見せた。
「肩を貸してくれないか?さすがに一人ではもう動けないよ」
 二人に肩を貸してもらい駆け寄ってきた綬朱の近くへいった。
「綬宝すまなかった。俺たちでも目で追うのがやっとだった」
「気にしないで。運が良かったあれだけやられて体がまだくっついてる」
「そういえば剣で背中を剣で打たれていたのに傷がありません不思議な鎧とマントです」
 陶格に言われて気がついた。鎧やマントは金色にキラキラと光っているくらいだ。部隊の中には鎧が壊れた者もいる。いくら法力で防いだとはいえ、どこか壊れるかしてもいいはずだ。
 綬朱の部隊は敵の新手の軍が来ないか警戒していたが、岳国兵は全て引いたらしく、しばらくすると演習軍本体が到着し、ようやく部隊は張り詰めていた緊張を解くことができた。
 綬宝は荷駄隊のやっかいになって荷物と一緒に帰ることにした。本体に着くと輪財たち若者の宝国兵が大人の宝国兵に状況を話すと「さすがは綬宝様だ」と活気づいた。綬楊も帰ったら皇帝陛下に伝えて皆に恩賞を出してくれるよう進言してくれると言ってくれた。
「宝国人もがんばりました。同じだけの恩賞を貰えるようにしてあげてください」
「もちろんだとも」
 国境近くまで、連絡を受けた皇帝陛下や漂香姫まで出迎えに来ていた。
「よくやってくれた恩賞のほかに今回戦闘に参加した者には別途勲章をとらせる。綬宝、お前がいなかったら全滅していたかもしれん」
 皇帝陛下から言われると照れくさかったが悪い気はしなかった。
 隣で漂香姫は綬宝が大した怪我もしていないことに安心していた。
「ごめんよ。貰った祈り玉の一つが相手の斧とぶつかって割れてしまったよ」
「ううん。あなたの身を守って壊れたのだもの、うれしいわ」
 彩国へ戻ると凱旋の祝いが行われた。
 国中に勝利が伝えられ、岳国の部隊を破った綬朱の部隊は英雄として扱われた。
 軍の勲章は三つに分かれており、白い色の鎖の下がった縄のような物が一番下の勲章となる。次が銀でできた鎖。そして金でできた鎖が最高のものとなる。
 綬楊などはすでにどの色の鎖も多く胸にぶら下げているが、若い者たちは功績をあげる機会がなかったため近年勲章を授与されたものは少ない。
 全員に白の勲章。
 部隊長の綬朱には銀。
 綬宝は敵の大将を倒した功績などで金の勲章を得ることができた。
 家族が勲章を得て綬楊も誇らしげであり、綬朱や部隊の皆と興奮しながら祝いの席につき酒を酌み交わした。角老師匠など宝国街からも招待されており、祝いの挨拶を皇帝陛下にし、部隊の皆にも酒をついで回る。綬宝は途中で席を立った漂香姫に追って歩いていた。
 その途中、文官たちが何やら話をしているのを見つけ聞き耳を立てた。
「さて、これからどうしますかな、岳国と争いも避けなければなりません。皇帝陛下はこのまま岳国と戦争をするおつもりでしょうか?」
「下手に火種をくすぶらせておくからこんなことになるのですよ」
「宝国との同盟ももはや過去のものです。彩国の利益を第一に考えねばなりません」
 聞いているだけでは何を考えているのか分からず。確かにこのまま戦争になるのはまずいなとだけ考えながら漂香姫のもとへと向かった。
 漂香姫は部屋に戻っており、夜の庭園へと二人で歩いた。漂香姫はどこか寂しそうな表情になっていた。
「これまでのように一緒にはいられないわね。あなたはどんどん遠くに行ってしまうわ」
 そう、俺にもたれかかるようにしながら漂香は囁いた。
「一緒にいられるよ。何も変わりはしないさ」
 その後は、二人で話すことなく空を眺めていた。

「それぞれの想い」④

 いつも通り出仕したある日。漂香姫が侍女や通りがかった女官たちに、楽しそうに何かを見せている。
「面白そうなものを見つけたの! あなた持ってみて」
 何か石板のような物だ。五つの水晶と目盛りがふってある。どこかで見たような気がするが思い出せない。
 漂香姫は女官たちに興味本位で手当たり次第にその石板を手に持たせたて、何やら覗き込んでいたが俺のところにもやってきた。
「はい、綬宝やってみて!」
 俺が石板に触れると薄暗く全体が金色に輝いた。
「何? 何? こんなの初めてよ!」
 石板は光るものの、目盛りは反応を示さない。速、力、知、防、射と五文字の上に長方形の水晶が埋め込まれ5までの目盛りがふってあるのだが、一番下に金色のすじが光るだけで一にも満たない。
「不思議ね。貸して、私が持つとどうなるか見せてあげる」
 [速:3、力:3、知:0、防:0、射:1]、そして目盛りは銀色に輝いた。
「ほら不思議でしょ? 私は色が銀色だけど女官たちは白色で目盛りも1くらいにしかならないのよ」
「私にも貸してくださりませんか?」
 振り向いたら宝国人の侍女の通称「ばあや」がにこにこしながら立っていた。年は自分の法力の師匠と同じくらいかに見えるおばあさんで、漂香姫のおつきの中では唯一の宝国人だ。
「あ、ばあやこれ知ってるの?」
 ばあやが手に持つと、[速:0、力:0、知:4、防:3、射:0]と白色に輝いた。
「わぁおもしろい! ほかの女官は速と、力しか反応しないのよ?」
「これは法力を測る石板で、法力の強さを示すものですよ。色はその法力をいかに使いこなせるか表しましてな。姫様は複数の法力を同時に扱えるため、銀色に輝いたのです」
「じゃあ、綬宝は何で石板自体が金色に輝くの? 目盛りだって何にも示さないじゃない」
「それは、全ての法力を使える能力が綬宝様にはあるのです。ただ、今はその法力を出せないでいるので石板自体が光ったのですよ」
「ふーん、なんだか綬宝が金色なのはくやしいな。でも、綬宝って本当はすごいのね!」
 法力が一向に上達しない綬宝だが、彼の潜在能力を知り漂香姫は喜んでいる。
「思い出した! 法力の授業の時にちらっと見た石板だ。これは貴重なもので宝物庫の中に保管しているって話だったのに。漂香姫、まさか勝手に入って盗んで来たんじゃないでしょうね!」
「人聞きが悪いわね! ちょっと借りてきただけよ」
 綬宝に石板を取り上げられ、ふくれっ面をしているが、彼には困った事態であった。知られると彼まで大目玉を食らうことになる。
 考えている間にバタバタと人の歩く音が聞こえる。持ち出したのがバレたようだ。
「見つけました!」
(もうだめだ!)
「綬宝おまえ何をやっている! 宝物庫から石板を盗みだしたのはおまえか!」
 漂香姫が止めるが、綬宝は強制的に宮殿の警備室に連れて行かれてしまった。
 結極、独房に入れられてしまったが、漂香姫が持ち出したとも言えず。綬宝としても、自分がやったという勇気もなく、尋問する役人に対し黙秘を続けていた。
 役人もらちが明かないと諦めたらしく、「続きは明日にする」と出て行ってしまった。うまくすれば父の綬楊が何とかしてくれるかもしれないし、漂 香姫も自分がやったと言ってくれるだろうが、身近にいる警護役として姫の監督任務を果たさなかったとおとがめがあるかもしれない。力なく壁にもたれかかっ ていた。
「兄さんあんた何をやったんだい?」
 突然声が聞こえて独房の外を見てみると向かいの独房から老人らしい声がする。
「盗みを少し」
 老人の声は鋭く威圧感があったが、気が許せそうな気がして応えた。
「盗みかぁ。ちいせえなぁ! 俺みたいに国王の暗殺未遂くらいやってみろってんだ」
 こいつはとんでもない悪党だ。
「皇帝陛下を暗殺ですって!」
「ふん! 何が皇帝陛下だ。宝国の王を見殺しにして、自分は皇帝を名乗る悪人さ」
 彩国国王は先の宝国が滅んだ戦争後、皇帝を名乗る岳国王に対抗するために皇帝を名乗っている。しかし、彩国と宝国は同盟国で共に戦い、ギリギリ のところ宝国王が命をかけた法力によって岳国兵の大半を倒し岳国王も重傷を負ったため彩国領には岳国軍が侵入することなく戦争が終わったと綬宝は教えられ ていた。
「おじいさんは宝国人なのかい?」
「ああ、宝国の射法部隊の隊長だった段各(だんかく)様よ。俺は三つ法の持ち主だからな宝国人の予知や防御の法力以外に射撃の法力を使えるのさ」
 各国の人間は基本的に使える法力が決まっていて、基本的にはそれぞれ二つあり。
彩国人は素早く動ける法力[速]と力を増幅させる[力]。
 岳国人は[速]と法力を飛ばし武器にする[射]。
 宝国人は予知や遠くのものを見通す[知]と、身体の防御力を高め盾のような物も物体化する[防]となっている。
 時々王族や極まれに一般人でも三種類の法力を使えるものや四種類の法力を使えるものが生まれるそれを「三つ法」や「四つ法」の持ち主という。
 補足すれば、何種類もの法力が使えるからといって同時にその力を発揮することはできるものは少ない。石板の目盛りが銀色を示した漂香姫のような 「銀法」の持ち主と呼ばれる特殊な例があるくらいであるし、彼女は[射]にも反応があったことから「三つ法」の使い手であることがわかる。
 その種類やどの程度能力があるかは石板などで見るしかない、一般の彩国民ならば成長して稽古ごとに通うようになると、[速]と[力]の科目があり、たまたま[射]が使えたりして気づく。
 綬楊と、兄綬朱は、ともに使える法力は[速、力]だけだがの銀法の持ち主である。
 国民により出せる法力の種類は、ほぼ決まっているのと、宝国の[知]や[防]は彩国民も岳国民も身に付けた例は無い。しかし、宝国民で[知]や [防]以外の能力を身に付けた例は多い。それだけ宝国民は柔軟性があるといえるのかもしれないが、彩国と岳国に挟まれている地理上のことも影響しているの だろう。
 彩国では三つ法の持ち主と解った場合、綬宝の兄のような学校に通い、将来は宮廷直属の部隊や精鋭軍に配属されることが多い。
 部隊長まで務めたこの老人は相当な法力の持ち主なのだろう。独房の壁に石が埋め込まれているのは力を出させない封印であることが推測された。
「おじいさん。彩国の皇帝陛下は同盟を守ったわけですし、宝国民を受け入れて小さな街を作り、いまでは彩国に宝国街としてなじんでいます。皇帝陛下が悪人とは、俺は思えないよ」
「彩国の若造が何言ってやがる宝国がいたからこそ、今まで岳国だって手出しができなかったんだ。それを遅れてやってきて何言ってやがる!」
「俺の父さんだって皇帝陛下の指示で必死に闘って宝国民を逃がしたんだ。出来る限りのことはやったよ!」
「父さんって綬楊隊長のことか?」
「ええ。自分も全ての法力が使えるらしいから、将来は彩国と宝国人のために戦いますよ。今はまだ何にもできないけど」
「全ての法力だと? お前『金法』の持ち主か?」
「俺はどうも法力の素質みたいなものはあるらしくて、自分が盗んだ石板で計ってみたら、金色には光るけど、目盛りが1も指さないんですよ」
 軽い気分で言ってみたが、向かいの独房の人は驚いた様子ですぐに言い返してきた。
「何!金色だと?ちょっと顔を見せてみろ」
 何かされやしないかと心配しつつ顔を独房の窓いっぱいまで近づけた。
「慶綬(けいじゅ)様……」
「へ?自分の名前は綬宝ですよ」
「貴方が綬宝様! 彩国王めっ! 王子が生きているのを知って罪人として処刑する気だな!」
「おじいさん落ち着いて! 看守が来ちゃいますよ。自分は王子の筈ないですよ。父親も母親も彩国人ですもん」
「いえ、あなたは慶綬様の若いころにうり二つですし、彩国人で知と防の法力を持てる者はいない。さっきの石板が金色に輝いた話もその証拠です。綬 宝様は生まれた時から金法を持って生れてこられたのです。慶綬様は最後にご自分の五つ法の力と、幼かった貴方の法力を使い岳国軍を壊滅させたのです。その 時慶綬様は亡くなられてしまったが、綬宝様は行方知れずになってしまったとの話でした。私は戦の直後、怒りにまかせ彩国王を暗殺しようとしたのです」
「そんな、自分が王子なんて信じられません」
「あなたは宝国人の希望です! なんてこった! このままでは死んでも死にきれない!」
 また騒ぎ始めたおじいさんになんとか落ち着いてもらい。綬宝は宝国人のはずはないと言ったが譲らない。宮殿に小さいころから出入りしていて漂香姫の遊び相手をしていたと告げると考え込んでしまった。
「俺は宮殿に自由に出入りできてますし、今回独房に入れられましたがきっと大丈夫、外に出られますよ」
 軽く言ってみたが、まだ納得してはいない様子で俺に告げた。
「角老隊長のところに修行に行っているのなら、私にはなおのこと宝国の綬宝王子だとしか思えません。今は独房の中に閉じ込められていますが、何かあった時には協力は惜しみません」
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで十分です」
 看守が来て独房の窓も閉じてしまった。そして、独房での夜は更けていった。

 次の日の朝、独房の朝食を食べていると看守に呼ばれた。
「綬宝外に出ろ! ただしこのまま皇帝陛下の前に行くぞ、覚悟しておけ」
 なんとも騒々しく独房から出された。
 突き飛ばされるように宮殿の謁見の間まで通された。そこには皇帝陛下やホッとした顔の父さんの姿も見えた。自分は首と手を動けないように固定されている。
「綬宝ごめんなさい!」
 漂香姫が泣いている。
「拘束をとけ!この者は無実だ。綬宝、申し訳ない娘の教育がなってなかったようだ。私からきつく叱っておいた。すまなかったな。どうかこのまま警護役を続けてほしい。今後は軍にも参加して彩国発展のために協力してくれ」
「わたしは大丈夫です。このおてんばな姫の相手も好きですから」
 拘束がとかれると漂香姫がわんわんと泣きながら抱きついてきた。目もなき腫らしたのだろう痛々しかった。
「俺は何ともないよ、気にするな」
 耳元で小さな声で囁いた。漂香はうんうんと頷き「ごめんなさい」と言うのがやっとだった。
 綬宝の無事な姿に、母や兄もホッとした様子だった。何も罰はなかったと告げると安心したようで母はへたり込んでしまった。
 普段は冷静な綬朱も「あのわがまま姫の首に縄でも付けとけ」と怒り出したくらいだ。確かに下手をすれば家族もろとも罪に処せられかねない。宮殿で起こったことだから問答無用で話が進むこともあり得ただろう。思い出すと身震いする。
 その夜、皆で夕食を食べていると父がポツリと言った。
「綬宝、皇帝陛下の言われた通り演習軍に参加するからな。一ヶ月後だ。それまでは法力の道場に住み込んで修行しろ、姫にも今頃伝わっている筈だ」
「え?」
 あれから十日間、道場での特訓が続く。特訓といっても逆さづりにされたり水の中に沈められたりと「拷問のような」ではなく「拷問の毎日」だ。
「こ、殺す気かぁ! これが、特訓のわけないでしょう!」
「ちょっとやそっとじゃおまえの法力は力を発揮できんようじゃ、一度死んでみい!」
「鬼! 悪魔! このくそじじい! (ブクブクブク……)」
 目覚めた時は布団の中だった。
「し、死ぬ。殺される。逃げなきゃ!」
 布団から飛び出し、出口へ向かう。道場の中は静かで踏みならす廊下の音も綬宝には生きた心地がしなかった。なんとか月明かりを頼りに道場の裏門から抜け出しが、この宝国街から抜け出すまでは油断できない。いや、家にも帰れない。
 行き場のない綬宝は宮殿の中へ適当な理由をつけて入った。漂香姫に匿ってもらおうと考えたのだ。夜、月を一人で眺めている漂香姫がいた。近づいていくとこちらを気づいたようだ。
「そこにいるのは誰!」
「綬宝だよ。お願いだから助けて!」
 俺は泣きながら漂香姫にすがりついた。涙や鼻水が止まらないししゃっくりもしてきて声がだせない。
「どうしたの? 修行が辛かったの?」
 やさしい声で頭をなでながら漂香姫は言った。
「うん、殺されちゃうよぅ。匿って!」
 漂香姫の胸に顔を埋めながら何とか喋ることができた。その間も頭をなでてくれる彼女の手は優しかった。
「でもね綬宝。ここに逃げてきたら教えるよう、ばあやに言われてるのよ」
 綬宝の手を取り。彼の手のひらに自分の手を置く。
「綬宝は法力が使えないでしょう? 正規の軍で演習に参加したらそれこそ死んじゃうわ。おねがいだから修行して強くなって」
 やさしい声で言った。目が潤んでいるのがわかる。
「ばあやに聞いたら道場の師範の先生は宝国軍の部隊長だった人ですって。本当に殺されやしないわよ。だから修行を続けて、ね? お願い」
 俺は我に帰った。このまま逃げ出したらいい笑いものだ。それに漂香姫にここまで言われて逃げ出したんじゃあ男が廃る。
「じゃあ。修業中また会いに来ていい?」
「駄目!」
 即答だった。
「そのかわり演習に出発する前日に必ず会いに来て。渡したいものがあるから」
「わかった……」
 後ろ髪惹かれる思いで振り返ると漂香姫が手を振っている。涙だろうか顔が光って見えた。もう、逃げ場はない。そう自分に言い聞かせて道場へと帰って行った。
「ばあや、本当に大丈夫かしら……」
「信じておあげなされ。綬宝様は金色の法力の持ち主です。立派になって帰ってきますとも」

「それぞれの想い」③

 次の日漂香姫はあっけらかんとしていて拍子抜けした。少しは恥ずかしがったりしたりするかと思ったのに、恥ずかしくて顔が見られないのは綬宝の方だ。
 数日が経ったが、失敗だったのは、あの日以来また外に連れて行ってくれとねだられることだ。確かに、あの祭りの夜連れ帰るのにまた連れてくるとは言ったがそんなに何度も外に出る機会があるわけがない。
「そんなにすぐには出る機会はないよ。見つかったら大目玉だ」
「うそつき」
 どこかに走って行ってしまった。一応お姫様つきの警護役だから勝手に一人で宮殿内でも歩かれるとまずい。
「ちょっと、待って! どこに行こうってんですか」
 すぐにあとを追うが、法力を使っているのか姿が見えなくなってしまった。
 しばらく宮殿中を探し回ったが見つからない。途方に暮れていると。
「わっ!」
 後ろから声がする。振り返ると漂香姫が立っていた。
「一人で勝手に宮殿を歩き回っちゃ怒られますよ」
「もうっ! 自分の家なんだから自由に歩き回ってもいいじゃない」
「宮殿でも文官たちが政務をしている場所があるんですから、皇帝陛下に怒られますよ」
「私はいつも宮殿の奥か庭にしかいられないじゃない。もっと色々見てみたいの!」
「ははは、綬宝も漂香の相手をするのも大変だな」
 振り返ると男の人が立っていた。備彩殿下だった。
 政務のため、会議室に向かっている途中のようだ。
 騒ぎがするので、気がついたのだろう。
「お兄様。私にも国のことを何かやらせてよ! 毎日習い事やなんかで嫌になっちゃうわ」
「お前は彩国の式典などの行事に顔を出すだけでいい。女なのだからもっと家庭的な事を身につけろ。綬宝を困らせるのではないよ」
 それだけ言うと、執務室に入って行ってしまった。
 執務室警備の兵が邪魔そうな顔つきで見ているので、綬宝は漂香姫を連れて戻ることにした。
 帰る途中も不満そうに言っている。
「もう、つまらない。やっぱりまた街に出たいわ。綬宝何とかしてよ」
「何とかしてといわれても。今度はお忍びじゃなく城下の見学に行けるよう、正式に宮殿警備の部署とかけあってみますよ」
「でも、それじゃあ乗物に乗せられて外に出られないし、色々な人が付いてきて変わらないじゃない。二人で遊べる方法を考えてよ」
 相変わらずのわがままぶりだが、綬宝としても二人で遊びたいといわれると悪い気はしない。
 思わず言ってしまった。
「漂香姫に勉強を教えていただいている先生方の方にこちらから出向くというなら、人数は減らせるかもしれませんよ。何回か出かけているうちに、途 中昼食と休憩を兼ねて立ち寄る場所からはすぐに移動にはならないでしょう。しばらくならお忍びで外に出られるかも。でも、初めからいきなりは無理ですよ」
「分かったわ。そうして! お願い」
 思ったことを素直に口に出してしまうのが綬宝の悪い癖である。
 見学を定期的に行えば漂香姫も納得するのを祈るばかりだ。
 彼は備彩殿下に執務を終えたところを見計らって言葉をかけた。
 執務室から出てきた大臣からは冷たい目線を浴びたが、備彩殿下とは一緒に勉強もした仲であるので、綬宝は特殊な立場にいる。
 本人は自覚していないが、いつ殿下付きの警備や補佐役見習いくらいにはについても遜色ない経歴を綬宝は持っているからだ。叱るわけにもいかずにそのまま通り過ぎて行った。
「そんなに宮殿の中だけでは物足りないのかな。社会勉強だと思って機会を作ってもらえるよう、私からも父上に伝えよう。綬宝が手を焼いているとね」
 少し考え混んだようすだったが、備彩殿下からは好感触を得た。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 しばらくして許可が下り、城下の見学の日取りや道順が決められ綬宝が取り次いだ。
「初めは宮殿から直接、姫に絵の勉強を教えていただいている先生のところへ出向いて授業を受けることになります。昼食後の出発で、おやつぐらいはいただいて帰れるかなといったところです」
「全然自由がない。ただ行って帰ってくるだけじゃない。それなら呼びつけても変わらないじゃない!」
 漂香姫は口をどがらせて不満げだ。
「はじめのうちはしかたないですよ。がまんしなくちゃ。それに、呼びつけてなんて言葉は、はしたないですよ」
 綬宝が人差し指で、漂香姫のおでこをちょこんとつついた。
 幼いころ彼女を叱るのに良くやっていた仕草が、つい出たのだった。
「う……ん」
 渋々ながら納得してくれたようだ。
 城下へ出るときには、は綬朱の率いる近衛隊が馬車を警護する準備をしている。
「兄さん、なるべくゆっくり進んでほしいんだ」
「街並みが良く見えるようにするよ」
 綬朱は了解とばかりに手を挙げながら答えた。
 近衛隊が城下を巡回することはよくあることなので、一般市民にはお姫様の見学だとは気付かれないように、あまり目立たない馬車行くことにした。
 姫の世話をする侍女たちは別の馬車に乗って後ろからついてくるよう編成し出発した。
 香姫は、すだれ越しにだが街の中を見ることができて、それなりに喜んでいるようだ。
「あの食べ物おいしそう綬宝買ってきて」
 街で売っているものを買い求め、馬車の中で食べたりもした。
 一般庶民の食べ物や服装に興味があるらしく、熱心に眺めている。
 最後に先生の授業を聞いているときは、つまらなそうだったが大体満足してくれたようだ。
「城下の食べ物もおいしかったわ。綬宝ありがとう!」
「喜んでくれてよかった。今度は長く城の外にいられるように頼んでみますよ」
 月に一回の割合だが見学ができるようになり漂香姫も喜んでいた。
 しかし、二回目で一度中止となってしまう。
 いつものように屋台に買い物に馬車から綬宝が降りて行くと、その店に顔なじみの女の子達が通りかかり綬宝と話す姿を見て、ふてくされてしまったのだ。
 彼が馬車に戻ったときに、漂香姫が不機嫌なのは分かったが、なんで怒っているのか見当もつかなかった。
 しばらくしてから漂香姫が口を開いた。
「何で、あんなに親しげに話してるのよ。城下に好きな子でもいるんじゃないでしょうね!」
 勝手にすごい剣幕で怒られた。
 綬宝も少々腹が立ってきたので。
「俺は城下に住んでいますし、宮殿の外での知り合いも多いですよ。仮につき合ってる女の子がいたとしても普通じゃないですか」
 言った途端に拳で腹を殴られ悶絶した。
 そしてプイっと横を向いてしまい、しゃべらなくなった。
 話しかけても答えてくれない状態が数日間続く。
 城下への見学も「行かない!」と、突っぱねる。
 宮殿に出仕してもあい変わらず不機嫌なので、侍女たちも困っているようだ。
 若い侍女たちから何とかしろと言われるがどうしようか思いもつかない。綬宝が考えていると、女官たちが何かに気づいたように急にいなくなってしまったので、何だろうと後ろを見ると、漂香姫が立っていた。
 目が怒っている。恐る恐る話しかけようとしたら、無言で歩いて行ってしまった。
「綬宝。漂香を怒らせたようだな」
 そこに備彩殿下が笑いながらやってきた。
「兄の私にさえ不機嫌そうにしているぞ、なんとか機嫌を直す方法を考えろ」
「そんな事を言われても、どうしたらいいのか私には解らなくて困っているんです」
 馬車での会話を打ち明けると、備彩殿下は可笑しげにしている。
「笑い事じゃないですよ。どうしたらいいのでしょうか?」
「対策を教えてやろう、耳元で囁くように漂香姫の事が大事だと言うのだ。一番とつけるのと簡単な贈り物も忘れずにな」
「そんなことで大丈夫なのですか? かえって怒られやしませんか?」
「大丈夫だ。漂香にとって同年代で親しく話せる男はお前ひとりだ。機嫌を取っておくくらいの気持ちでやってみろ」
 勇気をふりしぼり、漂香姫のところに行った。手には宝国街の祭りの日に二人で食べた飴と新しい髪飾りを持っている。
 恐る恐る漂香姫に近づき、目の前に飴と髪飾りを出して耳元で囁いた。
「城下には知り合いの女性はいるけれど付き合っている女の子はいないし、漂香姫が一番綺麗ですよ。俺にとって小さいころから一緒にいた漂香姫が一番大事です」
「本当?」
「本当です。機嫌を直してください」
 備彩殿下の助言通りすっかり機嫌を直してしまった。これで、良かったのだろうか?

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